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あなたの評判、あなたより周りが作ってる? 神戸大学「二重評判更新」の研究

あなたの評判は、あなた自身の行動だけで決まる。

普通はそう思いますよね。

ところが神戸大学などの研究チームが2026年8月に発表した理論研究では、もう一つの情報が協力社会を安定させる可能性が示されました。

それは、「その人が、周りからどう扱われているか」です。

誰かが助けられているのを見ると、「あの人は助ける価値がある人なのかも」と判断する。本人の行動を見ていないのに、周囲の扱いから評判を推測するわけです。

これ、ネットの世界でどこか見覚えがあります。

「助けた人」だけでなく「助けられた人」も評価する

研究が扱うのは「間接互恵性」と呼ばれる仕組みです。大ざっぱに言えば、直接お返ししてもらえなくても、評判の良い相手を助けることが社会全体の協力につながる、という考え方です。

ただ、大人数になると困ったことが起きます。同じ人を見ても、Aさんは「良い人」、Bさんは「悪い人」と評価するようになり、評判がばらばらになっていきます。

そこで研究チームは、誰かが誰かを助けた場面を見たとき、助けた側だけでなく助けられた側の評判も更新するモデルを調べました。

たとえばBobがCharlieを助けたのをAliceが見たら、「Bobは助けたから良い人」だけでなく、「CharlieはBobから助けてもらえる人なのだから、良い人なのかもしれない」と考える。

この「二重評判更新」を入れると、個々人の評価がそろいやすくなり、モデル上では協力も維持されやすくなりました。

富岳で100万超のルールを調べた

研究チームはスーパーコンピュータ「富岳」を使い、100万を超える社会規範の組み合わせを探索しました。

その中で、高い協力性と進化的安定性を両立した規範は61種類。そして61種類すべてに、何らかの形で「助けられた側も評価する」仕組みが含まれていました。

ただし、ここはかなり大事です。

これは人間を対象に「本当にみんなそう判断する」と確認した実験ではなく、数理モデルとシミュレーションの研究です。

研究者自身も、現実の人間が実際にこのように評判を形成するかは今後の実証課題だとしています。

中身より「誰からリンクされているか」を見る

さて、この仕組みを固有名詞抜きで考えてみます。

対象そのものを全部調べるのではなく、周囲がその対象をどう扱ったかを手掛かりに、見えない価値を推定する。

これ、初期のGoogle検索を有名にしたPageRankと構造が似ています。

Webページの価値を考えるとき、ページ自身が「私は重要です」と書いていても信用できません。

そこでPageRankでは、別のページから張られたリンクを一種の「票」として扱います。しかも、単純にリンク数だけを見るのではなく、重要なページからのリンクほど重く評価するという再帰的な仕組みです。

あなたの評判、あなたより周りが作ってる? 神戸大学「二重評判更新」の研究
記事内容をイメージした図

つまりページの中身だけでなく、「他のページからどう扱われているか」を見る。

人間の評判モデルでは「誰から助けられたか」、Webでは「誰からリンクされたか」。意味は違いますが、周囲から入ってくる関係を評価信号として使う構造はよく似ています。

周りの扱いは、良い方向にも悪い方向にも働く

この仕組みには少し怖い面もあります。

神戸大学の発表でも、誰かが冷遇されているのを見て「冷遇されるような人なのだろう」と判断すると、本人が悪いことをしていなくても別の人まで冷遇する可能性が指摘されています。

逆に、周囲から協力されているだけで「きっと良い人だ」と評価が上がることもありえます。

つまり「周囲の扱いを見る」は、評判をそろえて協力を安定させる一方、排斥まで同期させる可能性がある。

ネットでも、人でも、他人の評価を手掛かりにするのは効率的です。でも、みんながそう思っていることと、本当にそうであることは別です。

そう考えると、教室の人気者は歩く被リンクなのかもしれません。

SEO対策として友達を増やすのは、たぶん検索順位には効きません。

参考資料

宇宙船は、ちゃんと壊れるから帰ってこられる。耐熱材をX線で見た研究

宇宙船の耐熱材は、壊れないから強いわけではありません。ちゃんと壊れるから、中身を守れます。

Berkeley LabとNASAなどの研究チームは、宇宙船に使われるアブレーション耐熱材が高温で内部からどう変化するかを、X線マイクロCTで加熱中に3D観察しました。再突入時には3,000°F(約1,650℃)を超える環境もありますが、今回の試料観察は最大1,652°F(約900℃)まで。実際の再突入を丸ごと再現した実験ではなく、材料内部の分解過程を詳しく見る研究です。

宇宙船の耐熱材は、なぜ「壊れる」のか?

アブレーション耐熱材は、熱に耐えて永久に残る壁ではありません。表面側が炭化・分解・消耗しながら熱を受け止め、重要な機体内部へ熱が届くのを遅らせます。

Berkeley LabのAdvanced Light Sourceでは、SLA-220とSLA-561Vという2種類のsuperlight ablatorを加熱しながらX線マイクロCTで観察しました。高速で広い範囲を撮る低解像度画像と、加熱前後の高解像度画像を組み合わせ、AIによる超解像で時間変化を詳しく復元しています。

同じ「耐熱材」でも壊れ方はかなり違いました。SLA-561Vではコルク成分などが分解して空隙が増え、SLA-220ではシリコーン系マトリクスの分解に伴って複雑な孔のネットワークが現れました。こうした孔のつながり方は、熱や分解ガスが材料中をどう移動するかに関係します。

強さは「無傷でいること」だけではない

この研究を固有名詞なしで見ると、少し変わった設計思想が見えてきます。

全体を守るため、失ってよい場所をあらかじめ外側に置き、そこへ損傷を集中させる。

壊れること自体が失敗なのではなく、どこが、どの順番で壊れるかを制御する。ここからかなり遠くへ飛ぶと、トカゲの尾に似た構造があります。

宇宙船は、ちゃんと壊れるから帰ってこられる。耐熱材をX線で見た研究
記事内容をイメージした図

トカゲの尾には「ここで切れる」が仕込まれている

一部のトカゲは、捕食者につかまれたときに尾を自ら切り離す自切(autotomy)を行います。

面白いのは、単に尾が弱くてちぎれるわけではないことです。自切できる種では、尾の椎骨や周囲組織にあらかじめ切れやすい面があり、そこに沿って分離することで損傷や出血を抑えます。切れた尾がしばらく動き続け、捕食者の注意を引く例もあります。

つまり「壊れやすい尾」は欠陥ではありません。命を守るために、本体より先に失ってよい場所を用意した防御構造です。

耐熱材とトカゲに共通する「正しく壊れる強さ」

宇宙船のアブレーターとトカゲの自切は、物理現象も目的も同じではありません。それでも設計構造を抽象化すると共通点があります。

すべてを無傷に保とうとせず、交換・消耗できる領域へダメージを引き受けさせ、価値の高い本体を守る。

私たちは「丈夫」を、つい「壊れない」と同義に考えます。でも極端な環境では、壊れない材料を目指すだけでなく、壊れ方そのものを設計する方が強い場合があります。

宇宙船もトカゲも、最強の防御は「絶対に壊れない」ではなく、「そこなら壊れていい」を決めておくことなのかもしれません。

参考資料

仕事が早くなるほど、仕事が増える? Google調査で科学者のAI活用に意外な渋滞

AIを使えば仕事が早く終わって、自由な時間が増える。

普通はそう思いますよね。

ところがGoogle、Google DeepMind、MIT FutureTechが2026年9月に公表した科学者向けの調査を見ると、ちょっと変なことが起きています。

AIを使う科学者は、週に約7時間を節約できていると答えている。

なのに、試せていない研究アイデアはむしろ増えている。

仕事が速くなったのに、仕事が詰まってきた。

これ、道路を広げたのに車が増える話とちょっと似ています。

科学者はAIで「ほぼ1日分」の時間を浮かせている

Googleが公開した「AI & Economy ATLAS」の新しい分析では、米国と英国の600人超の科学者への調査や、2,600以上の科学向けAIモデルなどをもとに、研究現場でAIがどう使われているかを調べています。

その結果、調査対象の科学者のほぼ半数が何らかのAIを毎日利用していました。

そしてAIによって時間を節約できていると答えた科学者では、平均すると1週間に7時間弱の時間が浮いていると報告されています。

1日8時間勤務だと考えると、ほぼ丸1日分です。

「じゃあ金曜日は休めるのでは?」と思いたくなります。

残念ながら、そうはなっていません。

浮いた時間で、さらに研究していた

研究者たちは、浮いた時間の多くをさらに研究へ使っていました。

AIなら文献を探したり、データを整理したり、コードを書いたり、研究のアイデアを考えるところを速くできます。

すると今度は、「試してみたい仮説」がどんどん増える。

Googleの研究では、41%の科学者が「まだ試せていない仮説の在庫が増えた」と回答しています。また44%は、ここ2年で研究上のボトルネックが、物理的な実験やデータ収集など後ろの工程へ移ったと答えています。

AIはアイデアを速く作れても、試験管を10倍速く振ってくれるわけではありません。

臨床試験も、ボタンを押したら10秒で終わるわけではない。

だから、前半だけ速くなると後半に仕事がたまる。

研究室の中に、ちょっとした渋滞ができ始めているわけです。

道路も、広げると車が増えることがある

ここで全然違う話なんですが、道路にも似た現象があります。

渋滞している道路を見たら、普通はこう思います。

「車線を増やせばいいじゃん」

実際、道路を広げれば短期的に移動時間が改善するケースがあります。

ただ、道路が便利になると、それまで別の道を使っていた人が来たり、時間をずらしていた人が混雑時間帯に戻ったり、「それなら車で行こう」と新しい移動が生まれたりします。

こうして道路の容量を増やしたことで、逆に交通量そのものが増える現象は「誘発需要(induced demand)」として知られています。

米国の都市を調べた有名な研究でも、高速道路が増えると走行距離も大きく増える関係が報告されています。

道路を広げる。

↓

走りやすくなる。

↓

みんな走る。

↓

また混む。

便利になったことで、その便利さを使う人が増えるんですね。

AIでも「仕事の誘発需要」が起きるのかもしれない

もちろん、道路の誘発需要と研究現場のAI活用は同じ現象ではありません。

でも構造だけ見ると、かなり似ています。

AIによって、これまで高かった「仕事を1個進めるコスト」が下がる。

すると、今までなら時間がなくて諦めていた分析や調査やアイデアまで、やってみようと思える。

仕事が減るのではなく、「やれる仕事」が増える。

これは研究者だけの話ではなさそうです。

僕自身もAIを使っていると、「30分かかるからやめておこう」と思っていたことが5分でできるなら、結局その5分の仕事を6個始めたりします。

メールが10分で書けるようになったら早く帰るのではなく、もう1本資料を作る。

調査が速くなったら休むのではなく、もう少し調べる。

AIで1時間浮いたからといって、その1時間を公園でハトを眺める時間に変換できるとは限りません。

「AIで何時間減ったか」だけ見ても足りない

この研究で面白いのは、AIの効果を「何時間短縮できたか」だけでは測れないことです。

Google自身も、AIによる時間短縮がそのまま新しい科学的発見につながるとは限らず、AIの出力確認、物理実験、臨床検証など、その先の工程を含めて研究プロセスを作り直す必要があるとしています。

これは普段の仕事でも同じだと思います。

AIで資料作成だけ3倍速くしても、最後に上司の確認待ちが3日あるなら、仕事全体は3倍速くなりません。

大事なのは、

「AIでどこが速くなった?」ではなく、「速くなった結果、次はどこが詰まった?」

を見ること。

AIを入れるたびに仕事が楽になると思っていましたが、もしかすると僕たちは今、仕事の道路をせっせと拡張しているだけなのかもしれません。

そのうちAI専用車線まで作り始めそうです。

参考資料

顔がなくても、生きて見える? 膨らむ毛玉ロボット「MOFU」が見せた生命感

顔も目も手足もない。ただ、ふくらんで縮む。

それだけでロボットは少し「生きている」ように見えるらしい。電気通信大学とソニーの研究チームが開発した球形ロボットMOFUは、全身を膨張・収縮させることで、人が感じる「生き物らしさ(アニマシー)」がどう変わるかを調べました。

毛玉が膨らむだけで、生き物っぽくなる

MOFUはJitterbug構造を使い、1つの駆動機構で高さを約210mmから280mmへ変化させます。研究では実機を撮影した20秒動画を使い、無効回答などを除いた498人の評価を分析しました。

その結果、静止したMOFUでは、全身の膨張・収縮も左右の旋回も、動きがない条件よりアニマシー評価を高めました。一方で、膨張・収縮が旋回より明確に優れていたわけではありません。また、移動に旋回と膨張・収縮を加えた条件は移動だけより高評価でしたが、この実験は予定人数に届いておらず再検証が必要です。

つまり「膨らめば必ず生命に見える」という話ではなく、全身の体積変化が、生き物らしさを伝える動きの候補になるという研究です。

部品を足すより、形を動かす

ロボットを生き物らしくしようとすると、目や口、関節を増やしたくなります。でもMOFUは逆です。顔を作り込むより、物体全体に「溜め」と「戻り」を与える。

ここで思い出すのが、アニメーションの基本原則として知られるスクワッシュ&ストレッチです。ボールが床に当たる瞬間に潰れ、跳ねると伸びる。現実をそのまま写すのではなく、形の変化を強調することで、重さや弾力、勢いが伝わります。

顔がなくても、生きて見える? 膨らむ毛玉ロボット「MOFU」が見せた生命感
記事内容をイメージした図

もちろん、MOFUの物理的な体積変化と、アニメの作画技法は同じものではありません。ただ構造だけ見ると、どちらも「部品を増やさず、全身のまとまった変形を時間的に見せることで、観察者側に生命感を補完させる」という点が似ています。

生命らしさは、形より「変わり方」に宿る?

人は対象の見た目だけでなく、どう変形し、どう戻るかからも「何かが中にいる」感じを読み取っているのかもしれません。

これはロボット設計にも面白い示唆があります。表情用のディスプレイや複雑な関節を増やす前に、全身のリズムそのものを設計する余地がある。

ロボットに目や口を付ける前に、とりあえず深呼吸させてみる。

生命らしさは、部品ではなく膨らみ方に宿るのかもしれません。

参考資料

古代の本を読むために、新品の本を焼く。2000年前の巻物を救う逆転の研究

2000年前の焼けた本を読みたい。では、まず新品の本を焼こう。

かなり乱暴に聞こえますが、2026年9月にUC Berkeleyが紹介した研究は、本当にそこから始まっています。

相手は西暦79年、ベスビオ火山の噴火で炭化したヘルクラネウムのパピルス巻物。開こうとすると崩れてしまうほど脆いため、研究者は現代のパピルスで巻物を作り、古代風のインクで文字を書き、酸素の少ない炉でわざと炭化させました。

守りたい本には触れず、代わりの本を焼く。ここが今回の面白いところです。

なぜ、わざわざ新品の巻物を焼いたのか

ヘルクラネウムには現在も約1800点の巻物や断片が残っています。問題は、紙も文字も炭素を多く含むため、X線CTで見ても普通の炭素系インクは背景から見分けにくいことです。

研究チームは、インクに少量の鉛が含まれていればX線で強く見えるのではないかと考えました。そこで鉛の量を調整したインクで模擬巻物を書き、炭化させてCT撮影。鉛入りインクは炭化したパピルスより最大25倍ほどX線を吸収し、文字がはっきり浮かびました。

さらに、比較的安価な携帯型X線蛍光装置で鉛の有無を調べ、読みやすそうな巻物を先に選べる可能性も示しています。

ただし、これは「1800巻が全部読めるようになった」という話ではありません。効きやすいのは鉛などを含むインクで書かれた巻物です。

本物を守るために、偽物を壊す

この研究を見ていて面白いのは、価値のないコピーをできるだけ本物らしく作り、そのコピーだけを酷い目に遭わせるという発想です。

古代巻物そのもので「もう少し強いX線を当ててみよう」「この条件ならどうだろう」と気軽に試すわけにはいきません。失敗しても取り返せないからです。

そこで、材料や形、損傷状態を似せた「壊していい双子」を作る。双子なら焼けても、スキャン条件を変えても、アルゴリズムの実験台にしてもいい。

古代の本を読むために、新品の本を焼く。2000年前の巻物を救う逆転の研究
記事内容をイメージした図

飛行機にも「飛ばない一機」がいる

この構造、航空機の試験にも似たものがあります。

新しい航空機の構造を確認するとき、翼や機体を地上の試験設備に固定し、油圧装置などで大きな荷重をかける静強度試験があります。目的は空を飛ぶことではなく、設計どおりに荷重へ耐えるかを確かめること。

つまり、本番の多数の機体を安全に飛ばすために、同じ構造を持つ試験体へ先に無理をさせるわけです。

巻物と飛行機では、対象も目的もまったく違います。でも構造だけ抜き出すと同じです。

本番が貴重すぎて失敗できない → 挙動の似た代理を作る → 代理を限界まで試す → 本番を傷つけずに知識を得る。

自動車の衝突試験用ダミーや、医療画像装置を調整するファントムも、この仲間として見ることができます。

コピーは「本物より価値が低い」とは限らない

コピーというと、本物の劣化版という印象があります。でも実験では逆です。

本物にはできないことを、コピーならできる。

焼く。曲げる。切る。条件を変える。そして壊れたら、もう一度作る。

今回の研究で模擬巻物が価値を持ったのは、古代の巻物にそっくりだからだけではありません。壊してもいいからこそ、本物を守るための情報を引き出せたからです。

考古学者は過去を壊さないために、現在の巻物を焼く。

保存の研究なのに、作業風景だけ見ると放火です。

参考資料

OpenAIの「AI研究インターン」は何を変える?人間は“能力を借りる”働き方へ

最近、AIが研究の一部までやるようになってきてるらしいです。

2026年9月、OpenAIは社内で目標にしていた「自動化されたAI研究インターン」の段階に到達したと発表しました。

「AI研究者が完成した」という話ではありません。人間がやることを決めたうえで、これまで熟練した研究者なら数日かかっていたような、範囲のはっきりした仕事をAIに任せられるようになってきた、という話です。

研究室に、AIの後輩が何人も入ってきた感じでしょうか。

OpenAIの「AI研究インターン」って何をしているの?

OpenAIの研究者は、コーディングエージェントを使ってコードを書いたり、実験を回したり、結果を分析したりしています。

面白いのが、その量です。

OpenAIによると2026年8月中旬時点で、研究組織では人間が1日働くあいだに、AIエージェントは合計3.1日分の稼働時間を使っていたそうです。

もちろん、これは「人間の3.1倍の成果を出した」という意味ではありません。AIは同時並行で動かせますし、失敗した作業や人間による修正も含まれます。

実際、OpenAIのデータでは、人間なら4〜8時間かかると推定された仕事のうち、AIが成功したケースでも半数以上で人間が1回以上介入していました。

なので現状は、

「研究者がいらなくなった」ではなく、「研究者が自分で全部やらなくてよくなってきた」

くらいに捉えるのが近そうです。

で、これを見ていて思ったんですけど。

ウミウシじゃん。

一部のウミウシは「他人の能力」をそのまま使う

ウミウシっているじゃないですか。

実はその仲間の一部には、食べた藻から葉緑体を取り込んで、自分の体の中で使ってしまうものがいます。

葉緑体は、植物や藻が光合成するときに使う部品です。

普通なら藻を食べれば消化して終わりですが、こうしたウミウシは葉緑体を全部壊さず、体内の細胞へ取り込みます。この現象は「盗葉緑体(kleptoplasty)」と呼ばれ、種類によっては取り込んだ葉緑体が数日から数か月機能することが報告されています。

つまり、ウミウシ自身がゼロから光合成の仕組みを作ったわけではありません。

「その機能、いただきます」

をやってる。

AI時代は「全部覚える」から「必要な能力を借りる」へ?

ここが、今回のOpenAIの話と少し似ている気がします。

これまで仕事で新しいことをするなら、まず自分が勉強して能力を身につけるのが基本でした。

Pythonを使いたければPythonを勉強する。データ分析をしたければ統計を勉強する。資料を作りたければPowerPointを覚える。

もちろん今後も基礎知識は必要です。

ただAIが使えるようになると、順番が少し変わります。

「自分がその能力を持っているか」ではなく、「その能力を持つAIを、自分の仕事に組み込めるか」が重要になってくる。

OpenAIの研究者が一人でコードも実験も分析も全部抱えるのではなく、複数のAIへ仕事を振っているのも、そのかなり進んだ例に見えます。

一般的な仕事でも同じで、これから価値が上がりそうなのは「何でも自分でできる人」だけではなく、

  • 何をAIに任せるか決める
  • AIに渡せる形まで問題を整理する
  • 返ってきた結果がおかしくないか判断する
  • 複数のAIやツールを組み合わせる

といった力なのかもしれません。

これは「勉強しなくていい」という話ではなく、自分の中に全部の機能を持たなくても仕事ができる範囲が広がっている、という変化です。

そして「能力を取り込む」で思い出すのがゼウス

ここから話はだいぶ遠くなります。

ギリシャ神話には、ゼウスが知恵に優れた女神メティスを飲み込む話があります。

ヘシオドスの『神統記』では、ゼウスはメティスを自分の腹の中に入れ、その後も彼女が善悪について考えを授ける存在として描かれています。そして後には、ゼウスの頭からアテナが生まれます。

AI → ウミウシ → ギリシャ神話まで来てしまいました。

でも「自分の外にある能力を取り込み、自分の力として使う」という構造だけ見ると、不思議とつながっています。

そう考えると、AIを使うときに考えるべきなのは、

「私は何を勉強すべきか?」だけではなく、「私は今、どの能力を借りたいのか?」

なのかもしれません。

……だったらExcelが得意な人を食べれば、Excelも使えるようになるんでしょうか。

ゼウス方式なら、賢い人を飲み込めば思慮深さまで手に入る可能性があります。

会社ではたぶん怒られます。

参考資料

そのAI文章、もうバレます。Claudeが文章に「見えない印」を残す新技術

そのAI文章、もうバレます。

……と言われると、ちょっとヒヤッとする人もいるかもしれません。

最近はメール、レポート、ブログ、SNSまで、AIに文章を書いてもらうこと自体は珍しくなくなりました。

そんな中、Claudeを開発するAnthropicが研究しているのが、AIが書いた文章そのものに「見えない印」を残す技術です。

文章の端に「この文章はAIが作りました」と書くわけではありません。

普通に読んでも気づかない。

でも、専用の方法で調べると「あ、この文章にはClaudeの印がある」と分かる。

なんだか、AIが文章にこっそりマーキングしているみたいです。

Claudeが文章に残す「見えない印」

Anthropicが研究しているのは、テキスト・ウォーターマークと呼ばれる仕組みです。

画像なら、隅にロゴを入れたり、目では分かりにくい情報を埋め込んだりできます。

でも文章は少し難しい。

そこで、AIが次にどの単語を選ぶかという部分を少しだけ調整します。

文章としては自然な候補の中から、秘密のルールに沿った単語を選びやすくする。そうすると文章全体に、人間にはほぼ見えないパターンが残ります。

検出する側がそのルールを知っていれば、そのパターンを統計的に調べて、ウォーターマークが含まれている可能性を判定できます。

つまり、

文章の意味とは別のところに「私はここを通りました」という痕跡を残している。

これ、何かに似ています。

犬も「私はここを通りました」を残している

犬が散歩中に電柱などの匂いを嗅いでいることがあります。

あれは人間からすると、ただの電柱です。

でも犬にとって匂いは情報です。

犬を含む多くの哺乳類は尿や分泌物などによる匂いのマーキングを行い、縄張りや個体についての情報を残します。

面白いのは、そこに看板が立っているわけではないことです。

「昨日の18時ごろ、田中犬がここを通りました」

なんて書いてありません。

人間には何もないように見える場所に、それを読み取れる相手だけが分かる情報が残っている。

Claudeのウォーターマークも、構造だけ見ると少し似ています。

普通の人が文章を読む。

「普通の文章だな」

専用の検出方法で読む。

「……Claude、ここ通ったな」

パソコンの中に警察犬を飼う時代が来る?

パソコンの中の警察犬がAI文章の見えない印を嗅ぎ分けるイメージ
AI文章の「見えない印」を警察犬にたとえたイメージ

ここまで考えると、AI文章の検出器って、ほとんど警察犬みたいなものなのかもしれません。

Claudeが文章を作る。

↓

文章に人間には見えないマーキングを残す。

↓

検出器がやってきて、その痕跡を嗅ぎ分ける。

だったらもう、パソコンの中に小さい警察犬を一匹飼っておけばいい。

提出されたレポートを読み込ませると、画面の中をクンクン嗅ぎ回って、

「ワン! Claudeです!」

と教えてくれる。

技術として説明するとかなり高度なのに、やっていることを無理やり絵にすると急にかわいくなります。

ただし「AI文章なら全部バレる」わけではない

ここは大事です。

今回の技術は、世の中にある文章を読ませれば何でも「AIか人間か」を見破れる魔法の判定機ではありません。

ウォーターマークを付ける仕組みを使って生成された文章について、その印を検出する技術です。

またAnthropicの研究でも、文章が短かったり、大きく書き換えられたり、翻訳されたりすると検出が難しくなる問題があります。

そのため、

「AIで書いた文章は今後100%バレる」

という話ではありません。

それでも、AIが作ったものに「どこから来たか」という情報を残そうとしているのは面白い変化です。

AIが増えるほど「誰が作った?」が大事になる

AI文章が珍しかった頃は、「AIってこんな文章も書けるんだ」が話題でした。

でもAI文章が当たり前になると、今度は逆に、

「これ、誰が作ったの?」

が重要になってきます。

人間なのか。AIなのか。どのAIなのか。

作る技術が進むほど、出どころを確かめる技術も必要になる。

生成AIの進化というと、どうしても「もっと賢くなった」「もっと長い文章を書けるようになった」という部分に目が行きます。

でもこれからは、作ったものに出自をどう残すかも、同じくらい重要になるのかもしれません。

というわけで、未来のパソコンには高性能GPUだけでなく、警察犬用の小屋も必要になりそうです。

Claudeが文章を生成するたびに、画面の隅でマーキングしていると思うとちょっと嫌ですが。

参考資料