Metaが1億件の量子化学データを公開。OMol25が化学AIの常識を覆します。さらに、AIが進化すると“化学者の仕事”はどうなるのか?意外な考察も紹介します。
Metaが公開した「OMol25」とは?
2025年5月、MetaのAI研究部門(FAIR)は、分子化学に特化した超大規模なオープンデータセット「Open Molecules 2025(OMol25)」を公開しました。
このデータセットは、AIによる分子構造予測や反応解析を目的としており、約1億件の高精度な量子化学計算(DFT)データを収録。従来のデータセットとは比較にならない規模と多様性を誇ります。
なぜOMol25は画期的なのか?
- 83種類の元素を網羅(周期表の大部分)
- 最大350原子の分子構造を含む
- 生体分子・金属錯体・電解質・反応経路をカバー
- すべて高精度なDFT理論(ωB97M-V/def2-TZVPD)で計算
- 研究者が自由に利用可能(CC BY 4.0 ライセンス)
活用分野は無限大
OMol25は、以下のような分野での応用が期待されています。
- 新薬候補の構造スクリーニング
- 電池材料の電解質設計
- 新規触媒の探索
- AIによる分子反応予測のモデル開発
実際にAIはどこまで予測できるのか?
OMol25では、最新のAIモデル(eSENやGemNet-OCなど)を使ってさまざまな評価が行われました。中でも、タンパク質−薬物間の相互作用エネルギーや電子状態の予測、分子構造の再現など、化学精度に迫る精度が実現しています。
一方で、長距離相互作用やスピン状態の変化など、現在のモデルではまだ課題があることも明らかにされました。
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今後の展望
OMol25は、分子AI研究における「ImageNet」的な存在となる可能性があります。Metaは、今後このデータを活用したパブリック・リーダーボードも公開予定。世界中の研究者がこのデータを使い、AIによる新たな化学の扉を開こうとしています。
…しかし、ここで気になるのは「AIがすべて予測してしまうなら、人間の化学者の役割は減ってしまうのでは?」という問いです。次章では、この疑問に“逆説的な視点”から切り込んでみましょう。
【考察】AIが予測できても、化学者の仕事は減らない
AIが化学反応を正確に予測できるようになると、化学者の仕事がなくなると考える人もいるかもしれません。ですが、それは早計な見方です。むしろ、AIの進化によって化学者の役割は変化し、知的タスクが増えていくと考えられます。
1. 「なぜこの反応になるのか」を理解するのはAIではなく人間
OMol25の評価指標は、結合エネルギーやスピン状態などの「結果」を予測するものであり、その理由や背後のメカニズムの理解はAIの役割ではありません。むしろ、従来の理論と異なる現象がAIによって発見されるほど、化学者の考察力と説明力が求められるのです。
2. AIの出力を解釈・活用する“翻訳者”としての化学者
AIは大量の候補を出すことが得意です。しかし、それらをどのように現実の材料や装置に落とし込むか、その判断と戦略は人間にしかできません。とくに、製造性・安全性・コスト・スケールアップの問題は、実験の経験を持つ化学者の手によって統合される必要があります。
3. “直感に反する”提案が増えることで、新しい問いが生まれる
AIが非直感的な反応や構造を出力するようになればなるほど、それを理解し、説明し、新たな仮説を立てる力が求められます。これは、化学者が観察者から探究者へとシフトすることを意味します。
4. 化学の民主化と創造的化学者の時代へ
AIが基礎知識や計算部分を代行することで、より多くの人が化学研究にアクセスしやすくなる一方、創造性や文脈理解のような人間の能力がますます重要になります。OMol25のような基盤が整備されればされるほど、“誰でも化学を創れる”時代の到来が近づくのです。
まとめ
AIの登場は、化学者の仕事を奪うのではなく、「試行錯誤」から「戦略的設計」への進化を促します。OMol25は、そのための“思考ツール”として今後さらに注目されていくでしょう。
化学者の仕事は減らない。むしろ、より創造的で知的なものへと進化していくのです。
実際に論文を読んでみたい方へ:PDF+ラジオ体験も
この記事で紹介したOMol25の論文は、arXivの公式ページからPDF形式で誰でも無料でダウンロードできます。 ぜひ一次情報に触れて、あなた自身の視点でこの研究の可能性を感じてみてください。
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NotebookLMの使い方や活用法については、こちらの記事で詳しく紹介しています👇
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